hFE/IDSS測定、Tr・ FETチェッカー自作

トランジスタのマッチングというのをやりたくなったのだが、実際の使用条件に近い条件でのマッチングには安物テスターに付属の hFE測定機能では不充分ということを学んだ。最大で 0.1 A 程度のコレクタ電流条件でhFEを測れるようにしたいと思い、ちょっと検索するとhFEを様々な条件で測定出来る治具のような回路がいくらでも見つかる。最初に見つけたのはこのような抵抗2ヶだけを使う簡単な方法で自分の目的には充分かとも考えたが、もう少し良い物に出来ないかと調べ始めたのが泥沼の入り口だった。
http://ph7dc.but.jp/dc_amp/hfe_sokutei.htm より引用

まずよく見られるのがベース電流を固定しコレクタ電流を読む方式である。ベース電流の設定にはツェナーダイオードを用いた定電圧源を使い抵抗値を切り替えて電流を制御するのが一般的。有名なぺるけ氏の回路もこのやり方(下図引用)。コレクタに与える電圧値を切り替える追加機能というのはなかなか魅力的でオプションで取り入れたい。http://www.op316.com/tubes/mi-audio/hfe-tester.htm

色々調べていると、実際の使用条件に合わせると言ってもベース電流で設定するというのは一筋縄ではいかないのが判る。回路のバイアス電流に近い環境が良いのだろうが、hFEによって大きく変わるコレクタ電流をベース電流を調整して合わせるというのは業腹である。そうではなく使用回路のバイアス電流に近い一定のコレクタ電流を固定しトランジスタ毎のベース電流を測定してhFEを測定するのが良さそうである。ベース電流固定方式が主流となった理由は

  • 低いときは数μA程度しかない小さなベース電流を測定するのを躊躇した
  • コレクタ電流が大きければhFEが大きくなり直感的に分かりやすく、上手に抵抗値を決めればコレクタに繋いだ抵抗両端の電圧をmV単位で測ってhFEを直読させるのも可能なので重宝された

辺りだろう。前者は今のDMMの精度であればそう問題にもなるまい。後者は割り算を毎度面倒くさいがやれば済む話。A/D変換して処理するなど一段進んだhFE測定装置を作られる方には何の障害にもならないのだろうな。コレクタ電流を固定するというのはどうやるか分からなかった(今も分かりません)し殆どの「コレクタ電流固定」をうたっている回路でも大抵はエミッタ電流固定方式となっているようなのでその方向で進める。なにやら複雑な回路案が多い中で、ぺるけ氏のこれがFET測定用であるが目を引いた。このFETから一定のソース電流を引き出す手法はトランジスタにも使える、と信じるのだが転用例を見ない気がする。http://www.op316.com/tubes/toy-box/tester2.htm より引用

しかしながらツェナーを使う以上LTSpiceでシミュレーションしても極僅かな温度依存性は残るようだ。実用上問題無いかもしれないが何となく気持ち悪い。何か無いかとその後もしばらくWebを彷徨う内にスマートなアイデアを見つけた。そうである、基準電圧は別に定電圧源を組んでビシッと決めちゃえば良いのだ。レギュレータでもOPアンプでもコンデンサでもガラクタ箱に転がっているのを使えばコストも大してかからないし、趣味なので原価も手間もウルサいことは言わずに少々凝ったものにしてしまって構わないのだ。と言う事で下の写真のようなレールスプリッタ付き電源込みのトランジスタチェッカーを穴開き基板で作り始めた。

Project 177

さてパターンは完成して部品も揃え後はハンダ付けするだけ、というところになって又しても目から鱗の素晴らしいサイトに巡り会った。なんと測定対象をOPアンプのフィードバックループの中に入れてしまう。こうすることでReに掛かる電圧は上記案では微妙に変化するVbeの影響下にあったのに対し本案ではほぼ完全に電源電圧となる。何と性能は上がりつつ回路はどんどんシンプルになっていくという嬉しい進歩である。
トランジスタ、FET選別アダプタ より引用

マイナーオーディオさんの回路には考えを凝らした保護用の部品が多数付加されている。正直全て動作を理解しているとは言い難いが「DUT無しで測定スイッチは入れないから!」と条件を付けてコンデンサ以外は多くを割愛した。負側の電源電圧はReに無駄に高電圧を掛けても意味が無いと勝手に判断し4Vに抑え、DUTの上下で大きく非対称とした。12Vの安定化電源で使用したかったのも理由の一つ。下にNPNトランジスタ用の回路図を示す。コレクタ電圧設定用のTr Q3の選定は適当である。PNPトランジスタを測定する場合は電源の極性を反転させ、Tr Q3 をPNPトランジスタと繋ぎ替えるだけでありリレー一つの追加で済む。この回路でシミュレーションしてみると、Reを振ったりDUTを代えたりしてエミッタ電流を変えても温度を変化させてもReに掛かる電圧は4V一定でビクとも動かない。これをゴールと満足し実際に作ることにした。なお本機は幾つかのスイッチを追加することで、

  • 基本回路:抵抗Reを調整して任意のエミッタ電流を設定し、ベース抵抗Rb両端の電圧を測定してベース電流を求め除算することでhFEを計算出来る。厳密には hFE-1 となるがマッチング用には問題無い。
  • DUTのベースとエミッタ間(FETであればゲートとソース間)の電圧を測れば任意のコレクタ / ドレイン電流条件下での Vbe / Vgs 測定器にもなる。
  • ゲート・ソース間を短絡させてOPアンプ出力を外し、Reに流れる電流を測定すればFETのIDSSも測定可能

という多機能機となる。なお回路図中のOPアンプ入力の保護ダイオードはシミュレーションでは問題無かったが実際に動作させると動かなかったので削除したもの。考えるとReがR5とパラになってしまうのでOPアンプの入力電圧が下がって動かないのは当然か。何故LTSpiceでは動作したのか疑問。

ご覧になって既にお分かりと思うが小生には電気回路を設計する知識能力は無い。あちこちで見つけた物を中身も大して理解せずに組み合わせるだけである。豊富な経験と知見で作り上げた有用な回路、設計例を公開してくださる方々には感謝しかない。ということで本サイトでは初歩的なミスや考え違いをしている可能性があるので、問題点を見つけられた方は是非コメントにてご指摘いただきたく。

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